石上和弘さんアーティストトークレポート(10/24)

10月24日(土)、東静岡アート&スポーツ/ヒロバにて石上和弘さんのアーティストトークが開催されました。
今年度は、石上さんの2018年の本展出品作《道の作り方》に少し手を加えた作品、第27回UBEビエンナーレで市民賞を受賞した《アフター・アップル》、そして新作である《バナナピール》の3点がヒロバにて展示されています。

この日は23日までは無かった《バナナピール》の出現に、アーティストトークが始まる前から多くの人が作品の前に集まっていました。アーティストトーク当日に設置された出来立てほやほやの作品を前に、石上さんと担当キュレーター堀切正人さんによるトークが始まりました。

まずは《アフター・アップル》についてのお話から。
制作の経緯を聞かれると、「今まで地面を踏むことを意識する作品を多く作ってきたため、今度は床・壁・天井が一体化された作品が作りたいと思った」と語った石上さん。アイデアが先行してできた作品だといいます。
作品を見てみると、確かに齧りかけの林檎の形状は屋根と柱と床のように見えます。

制作の技術的な面について「建築的にも見える作品であるが、手が込んでいて素人目でも高度に作られていることが分かる。単なる図面通りの建築とは違って彫刻的に感じる」という堀切さんの言葉に対し、「図面上の円で作るのではなく、リンゴの形状にうねりを出し、木が曲がる限界まで膨らみをつけて有機的に見せている」と語った石上さん。

さらに堀切さんから「彫刻というと固い、重たい、がっしりしている、大きさ、かたまりといったイメージがある。しかしこの作品はかたまりではなく芯。あえて彫刻的なイメージと反転させることでひねっているのでは思った」と投げかけられると、「ひねっているというよりは、アイデアを形にしていくうちに自然とそうなった。構造的には人が中に入れるという意味で彫刻的なイメージとはさらに異なる」と答えられていました。

続けて彫刻的なものと建築的なものとの違いについて聞かれると、「美術や建築の意味ははっきりとは言えないが、作品づくりは山登りに近い。登ったらまた違う景色が見えてきて、想像を超えていく。それが制作の醍醐味だと思う。その“ゴールが見えない“という楽しみの部分ではないか」と双方の違いについて言及されていました。

続いて《バナナピール》についてのお話。
今年グランシップにて展示した曲げ合板の作品を作っている際に「この曲げ合板を使って他にも何か作品が作れないだろうか」と模索したところ、バナナの皮に行き着いたといいます。バナナの皮にはすべるといったイメージがあり、作品の批評性の意味を持ち、常に作品を自分で批評していかなければという思いが込められているそうです。

堀切さんから技術的な面について質問があると、「曲線の出し方が難しかった。エッジが立たないと形にならなかった」と答えた石上さん。このバナナのエッジは、作品として成立するように本来は五角形のバナナを六角形に変えて作っているといいます。また、実際のバナナの皮はただ置いただけでは覇気がないため、これは少し浮かせて作っているそうです。このことについて石上さんは「立ち上がる覇気を与えることで彫刻が生きてくる。覇気のあるものにするのが彫刻家の仕事だ」と語っていました。

また、堀切さんから色について質問があると、「シナ合板を使用し、ほとんど色をつけないことで素材の良さを生かした」と答えた石上さん。二週間もすればバナナも日に焼けてさらに黄色の深みが出てくるとのこと。そういった色の変化も野外展示の良さだといいます。

最後に《道の作り方》についてのお話。
これは2018年のめぐるりアート静岡で展示された作品ですが、石上さんは今回グランシップに展示していた浮き輪の作品を取り付け、これをさらに進化させるといいます。
この日はまだ取り付けがされていませんでしたが、10/30(金)に浮き輪が取り付けられましたので、現在はヒロバにて完成した姿を見ることができます。

今回の石上さんのお話から、アイデアから先行して形作られていく石上さんの制作スタイルや作品として成立させるための並々ならぬ形状のこだわりを垣間見ることができました。建築や彫刻、美術、それぞれの意味についても考えさせられる、濃密なトークとなりました。

小野あいり(めぐるりアート静岡サポートスタッフ/静岡大学教育学部4年)

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