10月20日(火)に静岡県立美術館にて臼井良平さんのアーティストトークが開催されました。同館1階エントランスで一つ一つの作品を前にしながら、静岡県立美術館・学芸員の川谷承子さんと臼井良平さんが語りました。
藤枝市がご出身で、中学生の頃より静岡県立美術館に通っていたという臼井さんは、過去にめぐるりアート静岡の前身となる「むすびじゅつ」(2012年)にも出展されています。
臼井さんは20代の頃から街中のスナップ写真を撮っており、放置されているペットボトルや空き容器のスナップの写真が多かったことがボトルの形態の作品につながったと語ります。
写真から立体作品を制作するにあたって、それまで臼井さんはガラスを扱ったことがなかったとのこと。どのような技法があるのかインターネットで調べることから始めたと言います。技法としてポピュラーなのは吹きガラスですが、溶けたガラスを塊として立体化するのは難しいもの。そこで、ガラスの粉に糊を加えて練ったものを石膏の型に入れて焼き上げ、研磨するパート・ド・ヴェールという技法に行き着いたと言います。
焼き上げに1週間、研磨に3〜4週間ほどを要する、大変な同技法に関して臼井さんは、
「面倒な技法にいきついてしまいましたが自分の性質と、地道なプロセスを重ねるこの技法は自分に合っている」と笑顔で語りました。
《Chair》を構想する際に、椅子やテーブルといった日常的にペットボトルがあるシチュエーションをインスタレーションにしたい思いがあったと言います。展示台には、建築家であり家具デザイナーのマルト・スタムがデザインした、カンティレバー構造の椅子と、臼井さんのボトルの作品が並んでいます。パイプの重厚な質感と自分のガラスの作品とを対比させることで両方が引き立てられれば、とのこと。
また、今回のプランに至った経緯として、臼井さんが中学生の頃に同館エントランスホールにあるバルセロナチェアのクロムメッキが持つ贅沢な光沢に心惹かれた記憶と、5月にバウハウス展が開催されていたことを語っていました。
臼井さんは自分の作品に関して、
「ガラスでできたペットボトルの違和感を大事にしている。人間の目で見ると、アクリルでもなく、単なる水が入ったペットボトルでもなく、ガラスとして判別できる。言葉にしにくいデリケートな感覚と、その差異についての作品でもある」と語りました。
そのため、今回の展示では素材とモチーフの違和感、展示「台」と自身の作品の違和感を大切にしているとのこと。
洗剤ボトルが熱で変形した形の抽象性から着想を得た本作品。しかし、今ではアルコール消毒ジェルが入っているように見えます。傍らに石鹸を置くことで現在皆が共有している社会状況を客観視できるようにしたと語ります。
これを受けて川谷さんは、
「見るひとの視点やいつ見るかによって作品の読み解き方が変わる。具象的なモチーフである一方で、発せられる雰囲気は非常にニュートラルなのが臼井さんの面白いところ。」と作品の多様な解釈の可能性とその面白さを説明しました。
「まさに道端にこういう状況があった」と語る光景を作品化した《道端》。
強烈なインパクトで頭に残っていて、写真にも撮らずいつかやろうと思っていた光景だったと言います。綺麗なアスファルトの上に、プラスチック製のパックと石ころ、という3つの関係性が臼井さん自身の中に入り込むような瞬間があったと語ります。
今回の臼井さんのトークでは、館全体に散りばめられた写真作品と立体作品を巡りながら、一つ一つの作品を丁寧に語られていきました。臼井さんの風景を見つめる眼差しや造形に対するこだわりがトークから滲み出ていたのが印象的でした。
河村清加(めぐるりアート静岡サポートスタッフ/静岡大学地域創造学環3年)
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