静岡市美術館・小左誠一郎さんアーティストトーク
例年、めぐるりアート静岡の会場のひとつとして作品展示の行われております静岡市美術館。
本年度の展示作家、画家の小左誠一郎(おさ せいいちろう)さんのアーティストトークが、10月26日(土)同会場にて開催されました。
トークのお相手をつとめる担当キュレーター、静岡市立美術館学芸課長・ 以倉 新(いくら あらた)さんからの作家紹介でトークはスタート。
焼津に生まれ、大学進学を契機に13年程東京で暮らした後、昨年の暮れに故郷の焼津へと帰ってきたという小左さん。
静岡での展示は初めてということで、今回の展示を大変に嬉しく感じると同時に、現在と過去の作品とを一緒に見てもらうことで自分を知ってもらうことが出来れば、との思いがあったといいます。
そのため出来る限り数多くの作品を持ってきて、会場にて並べながら展示する作品を選出。
最終的に、過去作を含めた11点の作品が、会場となる静岡市美術館・多目的室に展示されました。
柱や大きな窓を持つ特徴的な構造から、展示会場を面白い空間だと感じたという小左さん。
見る地点によって、見える風景が大きく変わってくる会場の特性を活かし、柱の影など意外な場所にも作品を配置。
見る場所によって、見えている作品も変化してくるようにしたのだといいます。
「通常の、入るとすぐに全ての壁面が見えてしまう四角い部屋での展示と異なる、この場所でしか出来ない展示になったのでは」と小左さん。
実際に全員で会場を移動しながら周辺を眺めてみると、予想もしなかったような場所にも作品を発見!
中には壁に埋め込まれた空調設備と並ぶように作品を設置するなど、意表を突くような展示の仕方も。
会場を歩き、現れる風景の変化を楽しみながらの作品鑑賞は、大変に刺激的です。
そして今度は以倉さんの問い掛けから、小左さんの絵画の大きな特徴である、『抽象画』についてのお話に移行。
小左さんは、自身の作品は大きく分けると抽象画ということになりはするものの、しっかり説明しようとすると難しくなるといいます。
目に見えているものを描いているというより、見えないもの・触れないものを描いている、という小左さん。
そこで以倉さんの口から出されたキーワードは、江戸時代の禅僧・ 仙崖(せんがい)と、その仙崖の絵である『○△□』という作品の名前。
禅の教えを広めるため、禅画と呼ばれる数多くの作品を残した仙崖ですが、その仙崖の 『○△□』 は、向かって右に○、中央に△、そして左に□があり、墨の色が○から□にかけて薄くなっている絵。
小左さんは「『○△□』 に出会ったとき、その絵がそれだけで絵として成立しているということに衝撃を受け、禅に興味を持った」のだと言います。
さらにはそこに禅の考え、『色即是空』が込められていることを知り、ますます興味を持ったのだという小左さん。
「自分は禅僧ではないが、画家にとっては絵を描くということが修行。それを続けることによって、自分の見たい『○△□』の風景が見えてくるのではないか」
そのようなことから、空(くう)を掴むような抽象画を描くようになったのだと小左さんは言います。
「『モノ』と『コト』とのふたつを同一視するのが禅の極意、そしてその『色即是空』は本来修行でしか得られないもの。それを絵で表現出来るなら、ずっと楽しく生きられるなと、それを目指している」
そんな小左さんの言葉を受け、
「モノというのは絵、コトというのは小左さんの経験されたこと。単に雰囲気的なものを追究しているのではなく、それが絵の中で同一にならないか、という考えが深いところにあるのだと分かった」
と以倉さん。
今回の展示作品にもある、○と△と□とが描かれた数点の作品を前に、トークをお聞き下さった来場者の方からも、「絵の霊性を追究しているような、そんな印象を受けた」とのご感想が。
小左さんの、絵画へと向き合う真摯な考えや姿勢が、真っ直ぐな言葉と作品から伝わってくる、大変に興味深いお話となりました。
そして以倉さんの言及は、今回の展示作品にも3点ほど含まれた題材『土星』に関するエピソードにも。
幼い頃、輪のある土星が好きでその絵をよく描いていたという小左さん。
それがある日、土星の輪っかが『輪』ではなく、実は氷の粒の集合体であったことを知り、大きな衝撃を受けることに!
「そこには平原が広がっていると思っていたのに! あの輪っかには乗れない!」
その瞬間に、土星の絵を描くことが出来なくなってしまったという小左さん。
ですが、このたび実家に戻り、土星の描かれた幼少期の落書き帳を見て、また土星を描いてみようと思ったのだそう。
「ここに居る誰もが土星を肉眼で見たことがなく、図鑑や、望遠鏡で小さく光る土星を見るくらいだけれど、実際に見るとどうなんだろうか。
人間の目にしかあのように見えていないのかもしれないし、宇宙人から見ると別のカタチに見えている可能性もある。自分にとって土星とは目に見えないもの」
と小左さん。
「風景を描いているというより、謎を描いている。自分にしか見ることの出来ない謎」
そうして描かれたのが、今回展示された3点の《Saturn》と名付けられた作品。
よくある土星のイメージとは、全く異なる絵となったこれらの作品にも、同じく 《Saturn》のタイトルが付けられています。
「最近はネットなどで何でもすぐに調べられるけれど、それは自分で経験したことではない。謎を謎のままにしておくことのほうが、豊かなものになる。
自分の絵を見た方にも、謎を残したまま帰ってもらう」
そんな小左さんの言葉を表すように、そこには依然として、たくさんの謎が散りばめられています。
「抽象画を描く人にとって、何を描くかは大きな方向性を決めるが、そんなエピソードを聞くと非常に小左さんらしいなと感じる」
とは以倉さん。
今回初めて小左さんの作品に出会った方々にも、小左さんの思いや人となりがヒシヒシと伝わってくる、素晴らしいトークとなりました。
仙崖の『○△□』や土星のお話など、小左さんの作品に纏わる様々なエピソードが飛び出した今回のギャラリートーク。
それらを手掛かりに改めて小左さんの作品を眺めると、きっとさらに魅力と謎とが深まって見えてくるハズ。
ぜひ皆様、そんなお話を思い出しながら、静岡市美術館の会場を歩き作品との出会いをお楽しみ下さい!
(文・吉村友利)
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静岡市美術館
〒420-0852 静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3F Google Map
Tel:054-273-1515
開館時間:10:00 – 19:00
休館日:月曜日
JR「静岡駅」北口より徒歩3分
公式HP http://shizubi.jp/