夜空の下で。(千葉広一アーティストトークレポート)

投稿 2019年 11月 11日(月)

全日程を終えためぐるりアート静岡2019。会場をめぐるりして頂いた皆さま、誠にありがとうございました。
週末に行われた千葉広一さんのアーティストトークの様子をアップします。レポートしてくれたのは静岡大学教育学部在籍の太田日向子さん。本展覧会SNS広報班として情報発信に務めて頂きました。

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11/9(土)、日も傾き辺りが薄暗くなった頃。東静岡アート&スポーツヒロバではめぐるりアーティストの千葉広一さんのアーティストトークが開催されました。

自身の作品を背に話を始める千葉さん。
「行きたい場所には行っておかなきゃいけない、会いたい人には会っておかなきゃいけない」そう語る千葉さんは、以前に感銘を受けた祭りにもう一度行っておかなきゃいけないと思い立ち、今回の映像作品を作るに至ったそうです。初めはその祭りの映像を使おうと足を運んだ千葉さんでしたが、そこで感じた音の魅力に気づき、今回の「旅」という映像作品には祭りの映像はほとんど使用せず、音を使用しているとのこと。

映像が始まり、参加者の方々は静かに、しかし真剣な瞳で千葉さんの作品の世界に入り込んでいました。街の景色、森の中、花火大会、祭囃子─と映像が進むにつれ、移りゆく音が、見ている人を本当に列車に乗っているかのように、別世界へと連れて行ってくれる……。時折鳴る車掌車脇の風鈴の音が現実と映像の世界を曖昧にするような、幻想的なひと時でした。

「この作品には最初と最後に『あなた』という言葉が出てくるんです」
と、千葉さんはこの作品にこめたメッセージを語ってくださいました。
貴方にとっての『あなた』は、もう会えない人かもしれないし、そばにいてもなかなか言葉を交わせない人かも知れない…。そんな一人一人の『あなた』のことを思えるようにという願いを込めて作った、という話を聴き、私もそんな誰かのことを思いながらもう一度見たいと感じました…!

また映像作品だけでなく、車掌車の周り置かれた沢山の椅子の作品についてもお話してくださいました。車掌車の周りにある椅子は、以前行ったワークショップに参加してくれた人の生まれた日の太陽の登る方角に向けて置かれたもの。
その中に混ざって2011.3.11という日付、そして1945.8.6、1945.8.9の日の出の方角に向けておかれた椅子もあり、自分が存在しなかったその日に思いを馳せるきっかけとなる作品であるように感じました。
さらに、その場で1枚のプレートを取り出し椅子に置く千葉さん。それは先の大戦で唯一地上戦が行われた沖縄の、日本軍の組織的な戦闘が終結した日の朝に太陽が上った方向に置かれたものでした。人と人が顔を合わせて殺しあった地上戦…。今と変わらないような日常が突然奪われてしまった悲劇。そんな自分のいなかったその日を想い、今ある小さな幸せ、生きていることの喜びを深く感じました。

最後は作品をバックに夜空の元での音楽ライブがありました。千葉さんの作品の雰囲気と呼応するような歌声に参加者の方々も聴き惚れているようでした。

最後に千葉さんは「自分の作った作品は、あなたが感じるように感じてもらえればいい」と語ってくださいました。いよいよめぐるりアート静岡も最終日。自分の足で、自分の目で、あなただけの感じ方でめぐるり作品を鑑賞できる最後のチャンスです。芸術の秋の最後に是非足を運んでみてください。

太田日向子
(めぐるりアート静岡2019SNS広報班:教育学部 学校教育教員養成課程 美術教育専修)

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