『木こりストーブでスモーク体験 』~食を通して森への思いを

めぐるり2019、11月2日(土)に開催されましたワークショップ『 木こりストーブでスモーク体験 』。

本年度の『めぐるり』プレイベントとして、会期前に一足早く開催される予定が、度重なる天候不順の影響により、なんと2回もの延長!

ですがこの日、晴れ渡るヒロバの青空の下、遂に念願のワークショップが開催されました!

今回イベントの企画者は、昨年度の『めぐるり』出展作家としてご活躍された、彫刻家・木下琢朗(たくろう)さん。

《刀耕火種~森のたねのゆくえ~》 の展示をはじめ、 昨年度は各種ワークショップの開催など通年にわたって自然・森と人とのつながりをテーマに活動を展開した木下さんですが、そのひとつとして開催されたのが、この『スモーク体験』のワークショップ。

「食」を楽しみながら、森と人との関係に思いを馳せるワークショップとして好評を博した本イベントが、今年も木下さんの手によって「めぐるり」に帰ってきました!

こちらは、昨年の『めぐるり』での展示風景。

本イベントの講師をつとめるのは、 安倍川上流の玉川地区にて林業を営む「玉川きこり社」代表の繁田浩嗣(しげた ひろつぐ)さん。
木下さんの 《刀耕火種》 の素材として用いられた木材をご提供して下さったご縁で、昨年のワークショップから引き続いてのご登場!

そして今年は同じく玉川木こり社さんより、木こりの吉野さん(上写真・左)と矢野さん(同・右)も、サポート役で参戦してくださいました!

まずは木下さんと繁田さんから、この日のイベント概要や、木下さんの作品とワークショップとのつながりに関してを簡単にご説明。

今回スモークに利用する 「木こりストーブ」は、別名「スウェディッシュトーチ」とも呼ばれていて、北欧では昔から、木こりの方々が森の中で暖を取るときに使っていたもの。

切った木は、中心に近いほど油を多く含んでおり燃えやすく、逆に周りは水分を多く含んでいるため燃えにくい性質を持つのだとか。

そのため、チェーンソーにより切れ目を入れた丸太の内側に火を付けると、外側は元のかたちを保ちつつ、内側だけが燃えていくのですが、これが木こりストーブと呼ばれているもの。

木下さんの《刀耕火種》が、制作の過程でこの木こりストーブと同じ方法を取り入れていることから、その木こりストーブを利用して美味しく食品をスモークしてみよう!というのが今回のイベント!

そして今年のスモーク体験では、昨年は見られなかった新たな工程が登場。

木下さんがおもむろに取り出したのは、安倍川の上流より拾ってきたという「火打ち石」と、それとセットで使う「火打ち鎌」。

そう! なんと今年のスモーク体験では、この2つを利用して自分たちの手で火を起こし、それによって木こりストーブに着火するというプロセスが新たに付け加えられていたのです!!!

木下さんが、火打ち石と火打ち鎌とを打ち合わせて飛ばしてみせた火花に、参加者も思わず「おおッ!」と声をあげます。

次に登場してきたのは、「 火口(ほくち) 」と呼ばれるいくつかの素材たち。

火打ち石で起こした火を最初に着火させる燃えやすい素材で、藁や おがくず、一度燃やして焦げた布、静岡で育てたれた綿花から採れた綿など様々なモノが登場!

これらに点火した火種を大事に育て、そこから木こりストーブの内部にも火を燃え移らせるというのが今回の最初のミッション!

それぞれ思い思いの素材を手に取り、火打ち石での着火作業に取り掛かる参加者の皆様。

けれども初めての火起こし体験に、皆様想像以上の大苦戦!!!

なんとか火口に小さな火を起こすことは出来ても、その火を育てて大きくし、木こりストーブに燃え移らせるのはなかなかの難作業。

「生まれた火種を他の素材で包んで、はじめは優しく、そして一気に強く吹いて火を燃え上がらせるのがコツ!」

という講師陣からのアドバイスを頼りに、大人から子ども達まで、いろいろな素材や方法を試しながらのチャレンジが繰り広げられます。

そのあまりの難易度の高さに、もしやこのまま時間が終わってしまうのでは・・・、とまで思われた火起こしチャレンジ。

ですが試行錯誤を繰り返し、遂に木こりストーブへの点火に成功するグループが!!

それに勇気付けられたのか、他のグループも順々に木こりストーブへの着火に成功!!

なかなかに大変な火起こし体験となりましたが、それだけにやり遂げたときの感動もひと塩!

無事、木こりストーブの準備が整ったところで、いよいよスモーク用素材の準備にも着手!

木こり社さんが用意して下さった玉川のヤマザクラの枝を、小刀で削って燻製のチップを作り、食材となるチーズも切り分け。

今回初めて刃物を使った子ども達も、講師の皆さんのお話をよく聞いて、自分たちで慎重にチャレンジ!

全ての準備を終え、さぁスモーク作りのスタート!

食材とヤマザクラのチップとを入れて火に掛けると、見る見る煙で充満していく鍋の中。

少しずつ、美味しそうな燻製の色へと食材が変化していく様子に、大いに食欲をそそられます!

スモークの完成を待つ間に、木下さんが持ち出したのは木こりストーブにかけたポット。

山で採ってきた「クロモジ」という植物の枝を乾燥させ、それを煎じるとハーブティーのような独特の香りを持つクロモジ茶の完成!

さらに繁田さんがお持ちになっているのは、由比にある原藤(はらとう)商店さんから頂いてきたというブリの干物。

未利用魚と呼ばれる、売り物としては使うことの出来ない小さいブリを活用しようとの試みで作られたこの干物も、合わせてスモーク!

山だけでなく、海までも含んだ静岡の様々な自然の恵みに、さらに皆様が持ち寄った他の食材も次々と投入!

待つこと数分。

すっかり煙に包まれた鍋の蓋を開けると、そこには!

なんとも美味しそうな色に染まった食材の数々!!

ひとくち食べると、たちまち口の中に広がるヤマザクラのチップの香ばしい薫り!!!

たくさんの静岡の恵みを持ち寄って、自分たちの手で火起こしから行い完成させたスモーク。

普段の生活では決して味わうことの出来ない、その格別な美味しさを、まるで時間を忘れたように、ゆっくりと皆様が味わわれていました。

こうして今年も、「食」を通して森と人とのつながりに思いを馳せる本ワークショプは無事終了。

「山との距離が縮まった、よいワークショップだった」と木下さん。

「火が点いてよかった! また山に遊びに来て下さい!」と繁田さん。

この日使ったヤマザクラのチップをお土産にもらい、「次の連休、キャンプで早速試してみよう」という参加者の方も!

まさかの火起こし体験も加わり、昨年よりもより一層パワーアップした今回のスモーク体験。

最後は木下さんの「皆さん、ごちそうさまでした!」の挨拶で、静岡の自然の恵みを味わい尽くす 、贅沢なワークショップは締めくくられました!

(文・吉村友利)

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