木下さん+安東米店『いのちのめぐり スイハニング』、おいしく迫る炊飯のヒミツ!!
めぐるりアート静岡2019の最終週、会期終了を間近に控えた 11/9(土)。
本年度の『めぐるり』関連ワークショップの最後を飾ることとなった、彫刻家・木下琢朗(たくろう)さんご企画の『いのちのめぐり スイハニング』が、この日、東静岡ヒロバにて開催されました!
木下さんは昨年の『めぐるりアート2018』ヒロバ会場にて、たねをモチーフとした作品《刀耕火種~森のたねのゆくえ~》(上写真・右) を出展するとともに、そこから派生するふたつの関連ワークショップを展開。
『食』に関するそれらのイベントは大変にご好評を博し、先に開催されました『木こりストーブでスモーク体験』に引き続き、このスイハニングも再び今年の『めぐるり』の場に大復活!!
そんなワークショップの講師をおつとめするのは、「アンコメ」の愛称で皆様に親しまれる「安東米店」さんよりお招きした長坂 潔曉(ながさか きよあき)さん。
昨年に引き続いてのご登場となる長坂さんは、 静岡市安東にて代々お米屋さんを営みつつ、『スイハニング(炊飯+ing) 』と名付けた炊飯イベントを、日本のみならず世界各地で多数展開するお米のスペシャリスト !!
身近でありながら実はとっても奥深い炊飯についてが、「お米を炊くと全部わかっちゃう!」、そんな大人気の『スイハニング』ですが、そこで主役となるお米に目を向けてみると、その正体は実は「種」。
木下さんの 《刀耕火種 》から、「種」繋がりでスタートし、昨年は『めぐるり』オープニング&クロージングイベントとして、大いにめぐるりを盛り上げてくれたこの『スイハニング』。
「火と食」を通して、おいしくご飯を味わいながら、森への思いを馳せてみるこのワークショップ、今年は一体どんな出来事が待っているのでしょうか!?
「みんな朝ご飯食べましたかー!?」の掛け声とともに、長坂さんの軽快なトークでイベントはスタート!
その時々で、様々なバリエーションで行われているというスイハニングですが、この「めぐるり」で行われるのは『柴(しば)』と呼ばれる材料を自分たちで集めるところから始める完全フルスペック・バージョン。
柴とはイコール、雑木の細かな枝木のことで、このスイハニングにおいてはご飯を炊くための貴重な燃料。
「『おじいさんは山に柴刈りに』の、あの柴! 全国の小学校の二宮金次郎の像は薪を背負っているけど、あれも作るのが大変だったから薪になってるだけで本当は柴!」
長坂さんのお話に、聞き慣れないハズの柴のイメージがパッと頭に浮かび上がります。
昔話の登場人物たちも、集めてそれをエネルギーとして利用していたという『柴』。
まずはそんな柴を集めるため、ヒロバから歩いて少しの場所にある谷津山のふもと、護国神社へと『柴刈り』に出発!!!
到着したのは、あたりを取り囲むようにたくさんの木々が生い茂る、護国神社の『鎮守の森』。
そこでこの森の歴史についてお話ししてくださったのは、 地質や防災のプロフィッショナルであり、また長坂さんのご友人として長年一緒にスイハニングを行ってきたという田中 義朗さん。
「いつからこの森はあると思う? 100年前? 1000年前?」
田中さんの問いかけに、これだけの木の多さならきっと昔から深い森が広がっていたのだろう・・・と周囲を眺め考えていると、なんと、正解は78年前!
元々あたり一面に田んぼが広がっていたというこの場所に、護国神社が作られたのは1942年のこと。
そのとき、静岡県の各地からたくさんの樹木が植栽されてきたといいますが、その数なんと13,000本!!
そしてその木々が育っていくことで、今こうしてお話を聞いている、この「鎮守の森」が出来たのだとか。
一方裏に続く谷津山も、昔はほとんど茶畑で、江戸時代の頃はほとんど木のない禿げ山だったというからこれもビックリ!
他にも、様々な木々が燃料として生活の中で使われてきた歴史、この場所に生えている木々の種類や特徴など、森に関するたくさんのお話を聞かせてくださる田中さん。
そうして森への理解を深め、より身近なものとして森を感じることが出来たら、さぁいよいよ柴刈りのスタート!
キレイに整備された参道から、柴を求めて生い茂る木々の間へと一歩足を踏み入れてみると、そこには辺り一面を覆い尽くすほどの落ち葉や枯れ枝。
普段はほとんど意識さえしていなかったハズなのに、今やすっかり貴重な炊飯のエネルギー源として、宝のように輝いて見える無数の枝木たち。
身近なモノが姿を変え、気付くとすっかり見え方が変わってしまうこの新鮮な感覚は、まさにアートの体験そのもの!
たくさんの枯れ枝の中から、燃えやすい乾いた枝を探して次々と集めると、あっという間に満杯になったいくつもの大きな袋を抱えて、ヒロバへと戻ります。
大漁の成果とともにヒロバに戻ると、今度はグループに分かれてのカマド作りに取り掛かりますが、その材料はなんと「丸太」!
森との繋がりを感じさせる素材として、「めぐるり」バージョンのスイハニングで昨年より利用されている玉切りの丸太は、木下さんの《刀耕火種 》にも用いられていた重要な素材。
ここで用いる切り立ての生木は、水分を豊富に含んでいるため乾燥している木よりもずっと燃えにくくなっているんだそう。
木下さんの指導の元、そんな生木の表面の皮を皆で手分けして剥いてみると、見て分かるほどに潤ったツルツルの部分が出現!
「入り口の方から風が直接入らない向きにすると、火のコントロールがしやすいかも!」
そんな長坂さんのヒントを頼りに、風向きを計算しながらオリジナルのカマドを組み立てたら、古くから炊飯に用いられてきた昔ながらの『羽釜(はがま)』をセット!
そこに投入されるのは、長坂さんが前日の夜からじっくり水に浸して準備しておいた、ひとグループ15合ずつものズッシリたっぷりのお米。
いつもはお釜に付いた目盛りを頼りに決められる水の分量も、今回の羽釜には当然そんなものはなく、どれだけ加えればいいのかもノーヒント。
これだけのお米を炊くのに、一体最適な水の分量はどれくらいになるのか?
「指の関節までって聞いたことある!」
「手のひら当てて、手首のシワの辺りまでじゃなかったっけ?」
あれこれいろいろな知識を持ち寄って、相談しながらココだ!と思うところまで注いでみます。
そして、いよいよ炊飯の開始!
・・・と思いきや、なんとそこから始まったのは、炊飯のために必要な火を、自分たちで起こすところから始める『火起こし』タイム!!!
先日のスモーク体験より導入されたこのチャレンジは、川の上流より木下さんが拾ってきたという火打ち石に、それと対となる『火打ち鎌』、さらに『火口(ほくち)』と呼ばれる様々な燃えやすい素材を用いて行う、昨年はなかった新しい試み。
何しろ火打ち石から起こすことが出来るのは、ほんの小さな一瞬の火花のみ。
そこからいかにして火口、そしてカマドの中に組み上げた柴へとその火を移して燃え上がらせていくのか?
様々な素材と方法を組み合わせ、試行錯誤を繰り返しながら、大人から子どもまで皆一丸となってこの難題に立ち向かっていく様は、まさにサバイバル!!!
それでも何とか難関を乗り越え、それぞれのグループで無事順々に火起こしのチャレンジを達成!!
そして、ここから15分間に渡る加熱の時間はスピードとの勝負!!
「はじめの10分で沸騰させないとおかゆになっちゃう! どんどん燃やして!!」
休む間もなくどんどん柴をくべ、今度は一気に温度を上げていかなくてはなりません。
長坂さんに発破をかけられ、モクモクと立ち昇る煙と格闘しながら、袋一杯集めてきた柴がここぞとばかりに大活躍!!
そうして煌々と燃え上がっていく炎。
さらには、そのまま勢いをキープ!
ちなみに同じ角度で入れ続けると柴が崩れて滑り落ちて来てしまうので、毎回違う角度でくべるのがコツ!
15分の加熱を終えると、今度はそのまま15分の『蒸らし』の時間。
炎を消して静かになったカマドを前に、ここでようやくちょっと一息。
長坂さんのお話によると、ここまでの一連の工程で羽釜の中で行われているのは、「煮る」「焼く」「蒸す」のみっつの異なる加熱法。
ひとつの過程で連続してそれら全てを行う、「焚き干し法」と呼ばれるこの調理法は非常に高度で、世界で見ても珍しいのだとか。
元々は東アジアの一部で行われて来ましたが、特に日本ではそれが洗練され、さらには自動で行ってくれる炊飯器が開発されたことで、より広い範囲にまでそのやり方が広まっていったのだそう。
「とっても複雑で緻密な調理法を僕たちは日常的に行っているけれど、ほとんどの人がそれに気付いていない」と長坂さん。
スイッチひとつで行われていた炊飯のヒミツが、こうして体験してみることで、徐々に明らかになっていく・・・、まさにこれがこのスイハニングの醍醐味!
そしてその炊きあがりを楽しみにしながら、羽釜の横で待つこと15分。
期待を胸に、いよいよその蓋を開けてみると・・・!
中身が見えなくなるほどのホカホカの湯気が立ち昇り、そうして目の前に現れたのは白く輝く炊き立てのごはん!!!
しゃもじに掬われキラキラと輝き、それを見た皆様の目も思わずキラキラ、そして我慢できずに一斉に手を伸ばし思わず早速の味見を開始!!
途端広がる、口いっぱいの幸せ!!!
ごはんの一粒一粒がしっかりと際立ち、力強く張っているのが見ただけで分かるこのごはん!
普段おうちで炊いているごはんとの全くの違いが、たったひとくち口にしただけで、舌の上ではっきりと伝わります。
「お米の粒が立っている」とは、まさにこのこと!!
この美味しさをじっくりと味わうべく、持ってきたお茶碗にたっぷりと盛り付け、さらには皆様で持ち寄った数々のおかずも食卓にプラス!
まるでピクニックのように、ヒロバのあちこちで食事が始まり、たくさんの作品で賑わう会期中のヒロバが、人々の笑顔でさらに華やかに彩られます。
持ち寄ったおかずをシェアし合いながら、そのたびに何度もおかわりをして、時には他のグループの炊き上げたごはんを頂いて味比べをしてみたり。
同じ手順で炊いていたはずでも、火加減によってそれぞれ全く違った炊き上がり具合になっていたりして、味の違いを楽しみながらますます見えてくる炊飯の奥深さ!
そうしてあれだけたくさんのご飯も、気付くとすっかり空っぽに。
最後は羽釜の底に張り付いたおコゲまでしっかりとよそい取って、満腹のなか、ごちそうさまでした!
盛りだくさんの内容で、こうして皆様の食欲と好奇心とをすっかり満たして終わりを迎えたスイハニングワークショップ。
「今日参加した方には、もう木が燃料に見えるようになったハズ! ルールさえ分かれば、どんな鍋でもフライパンでも、それこそ陶器製のコップでも同じようにごはんが炊ける!」
と長坂さん。
「もし災害なんかの緊急時になっても、炊飯器がないから食べられない!ではなくて、あるモノでなんとかすることを考えてみて。
私たちの世界には食べるものが満ち溢れてる! 燃料が満ち溢れてる! 今日の体験をしたことで、何があってもサバイバル出来るスキルが揃ったと思うので、各地域で皆さん、ぜひぜひ活躍して下さい!」
そう力強く語り掛ける長坂さんですが、実は昔はアートの世界に、ご自身も足を踏み入れていたこともあったのだとか。
「『こういうことが出来るんだ』ということが、何となくでも分かったり、体感出来るその説明の、方法として役に立つのがアートや美術の面白いところ。
そういう意味でも、この『めぐるりアート』の中でスイハニングをフィーチャーして頂けたことは、本当に嬉しい」
そんな長坂さんの言葉の通り、今日一日の様々な体験を通じて、本当にたくさんのことを、楽しみながら感じ・経験することの出来た今回のスイハニング。
最後は「アンコメ」さんが藤枝の農家・松下さんと共同で企画している、無農薬で育てられたお米『にのまる』をお土産にプレゼントされ、これでおうちに帰ってからのスイハニングの復習にもバッチリ!!
たくさんの発見とともに持ち帰った『にこまる』が、今度はどんな味で皆様を楽しませてくれるのか。
アートな食のイベントで様々なことを経験した今、見慣れたおうちでの食卓もきっと、いつもと違う新しい体験に感じられるハズです!!!
(文・吉村)