御宿さんインスタレーション作品『TOPOS(場)~記憶の風景~』 、アーティストトーク開催されました!

めぐるりアート静岡2019会期直前、突如として東静岡ヒロバの中心に出現した巨大な彫刻作品。

道行く人の誰もが思わず足を止め、時には近付き、時には遠くから、興味深そうにその姿を眺めているそれは、彫刻家・御宿 至 (みしく いたる)さんの作品。

この巨大な作品をバックに、 10月20日(日)、 他会場よりひと足早く展示の始まりました同会場にて、御宿さんのアーティストトークが開催されました!

トークのお相手をつとめますのは、担当キュレーターの白井嘉尚(しらい よしひさ)静岡大学名誉教授。(下写真・右)

このヒロバでの出展作家を考えるにあたり、この広大な空間を託すことの出来るのは誰か、と大いに悩んでいたという白井さん。

そのとき考えに上がったのが、ちょうどその時期、東静岡グランシップでの『めぐるりアート+(プラス)』に関する打ち合わせで、何度もやりとりを重ねていた御宿さんであったといいます。

御宿さんは、今年10月初週まで行われていた『めぐるりアート+(プラス)』前期展示にて、3点の作品を出展。

中でも518枚ものパレット(荷台)を積み重ね、その一枚一枚に、それまでの人生の時間の中で御宿さんが 関わり合ってきた無数の事物たちを仕舞い込んだ大作『SOMETHING GREAT 〜記憶の風景〜』は、グランシップ南側ショーウィンドウでの展示によって、道行く多くの方々の目を引くこととなりました。

御宿至

「その御宿さんがこのヒロバ会場を使ってくれれば、きっと何か凄いことをやってくれるのではないか」と考えたという白井さん。

そんな期待から、今回のヒロバでの展示のお話を御宿さんに持ち掛け、そうしてこの巨大な作品がこの場所に生まれるに至りました。

そして、お話は作品に関してに。

めぐるりアート+での『 SOMETHING GREAT 〜記憶の風景〜 』では、世界中で流通している無数のパレットを「記憶の引き出し」に見立て、けれどもそれ以上の無限の記憶の「引き出し」が私たちの身体には眠っている、というイメージを作品に具現化させたのだという御宿さん。

今回この場所で作品を作るにあたり、御宿さんが自分の中に探した「引き出し」は青年期の記憶。

御宿さんは富士宮に生まれ、小学4年生で静岡に来ることに。

高校1年の頃は、学校の帰り道、入院していた叔父のお見舞いに何度も病院へ通ったといいます。

自転車を引きながら、鉄道の上に架かる大橋を渡る御宿さんが見たのは、かつては国鉄の貨物置き場であったこの場所の光景。

「今のグランシップがある辺りまで、いっぱいの貨物列車が停まっていた。高校の頃には結構草も生えていて、その頃は少しずつ使われなくなった時期なのかもしれないが、そのような空間のイメージが僕の中にはある」

それが俯瞰図として記憶の中に残っていたことが、このたびの作品の制作のキッカケになったのだと言います。

「この作品を置くことで、記憶の中に残っていた土地、あるいはこのヒロバに眠っているであろうDNAを、ONにしてみたいという思いがあった」

そうして生まれたのが、この『TOPOS(場)~記憶の風景~』。

中央にある立方体の形状は、細胞の核をイメージしているのだとも言います。

そんなお話の一方で、

「作った時点ではこの土地のことを考えていたけれど、これが出来た後は、もしかするとこれは自分のことを作ったのではないか、とも思った」

とも語る御宿さん。

「僕の中にあるDNAを覚醒めさせること、それを求めて進んでいくということだったのではないか」

というその言葉が、めぐるりアート+での作品コンセプトとの繋がりも感じさせてくれる、とても印象に残るお話でした。

そしてお話は、この作品の持つ独特の存在感や力強さに関してにも。

今回の作品を見て、ひとつひとつはどこかで見たことがある素材であるのに、それが組み合わされることで、全く見たことのない状況が作り出されていることに驚きを感じたという白井さん。

確かに使われているH鋼や覆工板、足場丸太などの素材は、工事現場などに行けば普通に見ることのできるモノたち。

「そんな普通にある、誰もがアートだと思っていないものに新しい光を当て、新しい組み合わせを作ることで、何かドキッとするようなものを作り出す・・・、それこそがアートなのではないか、それこそが自分がめぐるりアート静岡で出会いたいものだ」

と白井さん。

「この作品があるとないとで、ヒロバがまるで違ってくる。『彫刻家の仕事は、空間を作ること』という御宿さんの言葉の意味が、この作品を見てよく分かった」

と力説する白井さんの言葉に誰しもが納得してしまう、目の前の造形の圧倒的な迫力と存在感。

そんな御宿さんの造形を支えるのは、日本とは異なる文化や建築様式を持つイタリアにて積み重ねられた様々なご経験。

「御宿さんの作品には、ローマで育まれたボリューム、マッス、スケールを感じる」と語る白井さん。

歴史的な建造物と間近で接することの出来るローマでの体験が、素材の持つディテールに対して深い関心を持つことのキッカケとなり、そのディテールへのこだわりは、今回の作品の素材の選定にも活きているのだそう。

ぜひ皆様もヒロバを訪れて、作品を間近からも眺め、また時には手で触れることで、それらの感触をじかに味わって頂ければと思います。

作品の持つ力によって、そこに眠るDNAをONにされた東静岡ヒロバ。

その刺激的な見慣れぬ光景との出会いは、きっと皆様の中に眠っているDNAも、思わずONにしてしまうハズです!

(文・吉村友利)

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