2018-11-10

木下琢朗さん、千葉広一さんアーティストトーク他、多数イベント開催されました!/11月10日ヒロバ

早いもので約3週間に渡る会期を終え、一部会場での展示を除き無事終了致しました「めぐるりアート静岡2018」。

最終週の土日には多数のイベントが開催され、今年度のめぐるりは最後まで大きな盛り上がりを見せました。

11月10日、東静岡アート&スポーツ/ヒロバにてまず開始されたのは「いのちのめぐり スイハニング」。

ヒロバにて作品を展示する木下琢朗(たくろう)さん企画、そして安東米店さんより四代目店主・長坂潔曉(きよあき)さん(写真・左)を講師にお招きしてのワークショップです。

田んぼからお茶碗まで」をコンセプトにしているという長坂さんは、お米を食べられる状態にする最後の過程・炊飯をテーマに「スイハニング(炊飯+ing)」と名付けたワークショップを各地で行っているお米のスペシャリスト。

今年のめぐるりオープニングでもスイハニングを開催し、美味しいお米の炊き方だけに留まらず、森と街との関わりに思いを巡らしてほしいという木下さんの思いを、参加した皆様により深くお伝えして下さいました。

 

今回も、燃料となる柴(しば=枝木のこと)をヒロバ近くの護国神社へ拾いに行くところからスイハニングはスタート。

護国神社の森の歴史や、静岡の平野が今の姿になるまでの過程などを、長坂さんのご友人であり地質防災管理をされている田中義朗さん(下写真・左)より伺い、森への理解を深めながら、自分たちの手でスイハニングに使う柴を集めていきます。

ヒロバに戻ると、かまどの材料となる丸太の皮剥きを開始。

木下さんの作品の素材でもある、安倍川上流・玉川地区の山からやってきたヒノキにじかに触れながら、かまどの組み方・羽釜に入れる水の量・火力の強さなどに試行錯誤しつつスイハニングを進めていきます。

緊張とともに徐々に高まっていく参加者の期待!!

沸騰してから15分の加熱の後、さらに待つこと15分…。

さぁ、待ちに待った完成の瞬間です!!!

ふっくらと炊けたお米の登場に、一斉にあがる感嘆の声!

ホカホカのご飯をさっそくお茶碗に盛り、持ち寄ったおかずを分け合いながら皆で食卓を囲みます。

初めて食べる羽釜での炊きたてご飯に、溢れる皆様の笑顔!

身近にある枝や木を使って、こんなにも簡単に美味しいご飯が作れるという驚きとともに、食を通して「いのちのめぐり」や、山からの恵みの大切さなどについて、思いを巡らせるきっかけとなりました。

 

美味しくご飯を味わったあとは、今回のイベントを企画した彫刻家・木下さん(写真左)のアーティストトーク。

トークのお相手を務めるのは、静岡大学美術教授である白井嘉尚(よしひさ)さん。

今回のスイハニングワークショップも、山と街との繋がりに思いを巡らせて欲しい、という木下さんの思いのもとに企画されたものでした。

丸太から種のカタチに彫刻した木下さんの作品を、普段は人の入らないような掛川の粟ヶ岳の山の中で目にしたという白井さん。

「自然から生まれ、森に抱かれるような感じがして惹かれたその作品が、街のなかで展示されることでどのようになるか見てみたい。」

そのような思いで、今回木下さんに出展のお声を掛けたのだと言います。

作品を囲み、参加者の皆様に実際に触れてもらいながらトークは進行。

《刀耕火種~森のたねのゆくえ~》と名付けられた今回の出展作品。

刀耕火種(とうこうかしゅ)とは焼畑農業のことで、静岡でも井川のほうではまだ実際に行われているのだそう。

急な斜面で稲作などが行えない土地のため、そこの木を切り倒し、火で燃やして畑を耕し種蒔きをするといいますが、「文化」を表す《カルチャー Culture》という語は、もともとは《耕す》という語源から来ているのだとか。

今回の作品の制作でも火を使う工程が用いられており、「木こりストーブ」と呼ばれる作業によって種の内側が空洞にくり抜かれています。

木下さんの解説によると、木こりストーブとは元々、木こりの方たちが山で暖を取る際などに使う簡易型のストーブ。

伐りたてのヒノキの生木の丸太に切れ目を入れ、その中心に火を付けると、木が元々含んでいる油によって燃えていくのですが、外側に行くほど水分を多く含んでいるため中心からじわじわと燃えていくのだとか。

木下さんは、とある天竜のイベントで偶然この木こりストーブと出会います。

煌々と燃えている木こりストーブを見て、なんとかそれを彫刻としてかたちに残すことがは出来ないか・・・。

そうして生まれたたものが今回の種の作品《刀耕火種~森のたねのゆくえ~》になり、6月にはヒロバにて公開制作も行われました。

また木下さんは、公開展示する土地の材を用いて制作することを心掛けており、今回も安倍川上流・静岡の玉川地区より間伐されたヒノキを使って作品を作っています。

造形の素材であるという以上に、木への関心を持っているのではないか、森がどうして木下さんの心を捕らえたのか、という白井さんの問いかけに、

「祖母と浜松の春野町に住むことになり、より身近に自然を感じる森のそばに住む機会となった。山の中に材料を取りに行くことなどで、森への関心が深まっていった」

という木下さん。

 

「小さい頃から父の転勤で各地を転々としてきたが、父や祖父が生まれ育ったこの場所に戻ると、そこがルーツであるように感じる。

携帯の電波も届かないような山奥にアトリエを構え、そこでは人よりも動物の数のほうが多い。真っ暗な山の中で恐怖も感じた。

そこではより本能に近い感覚が浮かんできて、そこで感じたことは自分の腑に落ちて受け止められた。」

とも木下さんは言います。

そうして生まれた今回の作品は、豊かな森の行く末を考えるための象徴としても表現したといいます。

そんな思いの込められた作品を、皆で木々の下を歩き鑑賞しながら進行した本日のトーク。

森に関するエピソードを伺うと、面白いお話がいくらでも出てきて、思わず森についてもっと知りたくならずにはいられません。

その土地の魅力をその土地の材を使って発信していくのが今の制作のスタイル、という木下さんのこれからの活躍が、大変に楽しみになるアーティストトークでした。

 

 

そしてこの日もうひとつ開催されたのが、千葉広一(こういち)さんによるアーティストトーク。

本物の車掌車を利用した「車掌車ギャラリー」にて、空間全体を使ったインスタレーション作品の展示を行った千葉さん。

毎日夕方になると、明かりの灯った温かな空間が車掌車を包むように現れ、多くの方々が足を止めその場所に立ち寄っていかれました。

この日も大変に多くの方がこの場所を訪れ、そんな車掌車を眺めながら、千葉さんのトークに耳を傾けました。

幼い頃より、ずっと孤独を感じて生きていたという千葉さん。

「教室の中では居辛さを感じ、絵を描いているときだけは自分らしくいられた。

けれど目標としていた美大に入ることが出来ると、目標を見失い、山での生活に逃げていってしまった。

その後卒業して教員になったあとも、劣等感の塊だった。

子ども達の中に入っていけない、おはようと教室に入るのも怖かった。ずっとこのままでいいのだろうかと考えていた。」

ご自分のそれまでを、噛みしめるように振り返り言葉にする千葉さん。

そんななか、あるひとつの出来事がきっかけとなり、その思いに変化が訪れることになったといいます。

それは数年前、当時教えていた高校の生徒達とともに、冬の雪山に小さな小屋を建てたときのこと。

実はこの日、トークに先立ち、展示場所である車掌車ギャラリーのすぐそばで、とある作業が開始されていました。

それは、数年前に生徒達とともに雪山に建てたという、その小屋の再現の作業でした。

あるとき千葉さんは授業の中で、雪原の中に小屋を作ろうという話を生徒たちに持ち掛けたといいます。

それは自分が体験した雪山での情景を子ども達にも伝えたい、という思いから始まったこと。

生徒達に描いてもらった設計図を元に、各パーツが観光バスのトランクに収まる大きさに小屋を設計、準備。

冬山での厳しさを伝えて、それでも行きたいという生徒達とともに、長野県美ヶ原の雪山に向かい、そこに2つの小さな小屋を建てました。

(写真は学校HPより)

 

《10代を生きる者の美術館あるいは祈りの場》と名付けられた2つの小屋を建てたこの体験は、千葉さんにとって大変に大きな意味を持ちました。

無言館と呼ばれる、戦没画学生の遺作となった絵画や手紙などが展示される場所を見学し、戦争や命、自らの生きかたについて考えること、

「今を生きる」をテーマに制作した絵画を小屋内に展示することなど、様々な事柄がこの活動を通して参加者に体験され、

また生命をも落としかねない極寒の雪山の中、星空の下で笑いながら過ごしている生徒達の姿を見て、

「たとえ歴史に残らなくても感じてくれる人が居るのなら、自分の表現はこれでいいのかもしれない」

と千葉さんは感じたといいます。

 

この日、車掌車のそばに再現されたのはそのうちの小屋のひとつ。

その作業には現在の千葉さんの生徒さんとともに、当時一緒にその小屋を建てた卒業生も参加してくれました。

雪山での体験をしたそのとき、千葉さんは、自分自身の芸術家としての生き方と教員としての生き方に、答えを出せたといいます。

また、そこで見た情景は一生忘れない、とも。

「どこかにこうして温かい場所を作りながら生きていきたい」と千葉さんは言います。

家族、というトークの中で何度も現れてきた言葉が、千葉さんのなかで大変に大きな意味を持っているということ、そしてその家族のように、出会った生徒達や人達を大切に思っていること。

そんな思いの伝わってくる、心打つアーティストトークとなりました。

 

そしてトークのあとには、千葉さんの同僚の方々が演奏をご披露。

その中には千葉さんのことを歌った歌もあり、千葉さんが作り上げてきた周囲との関係の温かさを、そんな場所からも感じ取ることが出来ました。

 

こうして、10日の数々のイベントも無事終了。

実はこの日、開催されていたもうひとつのイベントがあるのですが、それはまた次の機会に。

また、静岡市美術館を会場とした、彫刻家・杉山功(いさお)さんの展示は、引き続き25日(日)まで行われております。

最終日にはアーティストトークも予定されておりますので、今年のめぐるりをどうぞ皆様最後までお楽しみください。

(文・吉村)

***************

 

[ 杉山功さん アーティストトーク ]

日時:2018年11月25日(日) 14:00 ~ 14:40
場所:静岡市美術館
入場無料 / 申込不要

[ 展示会場 ]
静岡市美術館 Google Map
〒420-0852 静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3F
Tel:054-273-1515
開館時間:10:00 – 19:00
休館日:月曜日
JR「静岡駅」北口より徒歩3分

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です