ノエル・エル・ファロルさんアーティストトーク開催されました/中勘助文学記念館
中勘助文学記念館にて作品を展示しているフィリピン在住のアーティスト、ノエル・エル・ファロルさんのアーティストトークが、本日会場にて行われました。
トークのお相手を務めるのは、静岡大学美術教授である白井嘉尚(よしひさ)さん。
ノエルさんが30年ほど前に初めて静岡を訪れた頃からの、長いお付き合いになるそうです。
文学者・中勘助が暮らしていた「杓子庵」のあるこの場所。
代表作として知られる小説『銀の匙(ぎんのさじ)』は、まるで彼の日々の記録であるかのように書かれており、博物館における資料記録技術的なレベルにまで達している、とノエルさんは言います。
自伝的に過去の情景や生活を示している、そんな『銀の匙』の内容を受けて、この場所での展示の主題を「自らを語ること」に決めたというノエルさん。
ノエルさん自身が過ごしてきた、様々な日々のことがらをこの場所で示し、またそれらを知識を形成するものである「本」のかたちを取って表現する。
そのことによって、記憶と物語を紡ぎ出していく私たちにとっての『銀の匙』を提示してみたい。
そんな思いが、この展示には込められているといいます。
たとえば、 ミネソタで買ったという黒い表紙の冊子。
ページの各々には食べ物やお酒に付いていたラベルが貼られています。
なんでもこれはノエルさんの「ダイエット・プロジェクト」の日誌だそうですが、ダイエットと言っても減量のためのものではなく、人間が生きていく上での最低限の条件を調べるためのものだとか。
その写真を奥様がFacebookに投稿した際に起きた、ノエルさんがダイエットをしているのだと勘違いされてのやりとり、また過度の飲酒を制限するよう活動している団体のメンバーと間違われてコメントを付けられたりしたことなど、その冊子に纏わる思い出が語られていきます。
また本のかたちをしたこちらの立体作品。
これらはゴムの鋳型にドロドロに溶かしたパルプを流し込む、キャスティングと呼ばれる技法で作られたもの。
その原料となった紙は、ノエルさんが使ったクレジットカードの領収書やレシートなど、ノエルさんの特定の買い物の出来事が込められたものであったり、ノエルさんの作ったシルクスクリーンの作品であったりします。
それを乾かすのに掛かった4~5ヶ月の歳月も、長時間乾かす際に生まれてきた歪みというかたちで記録されています。
他にも、10年の間に訪れた4つの国での暮らしをスケッチで収めた冊子や、
海外を訪れ子ども達とワークショップを行ったときの記録冊子、
また北京オリンピックの際に全部破壊され、今はもう存在しない家々を描いた床の間の冊子など、それぞれの作品の持つ思い出や意味が順々と紐解かれていきました。
そして会場では本だけでなく、ガラスを用いて作られた作品も見つけることが出来ます。
植物や昆虫の姿が美しく封じ込められた、透明なガラスの作品群。
人々の指紋を顕微鏡で使うプレパラートのガラスの板に集め、手書きの名前のリストとともに箱に収めた作品。
これらもまた別の形での、ノエルさんの出会ったものたちの記録です。
「人間はどんな人でも同じような記憶を持っている。ここに提示された日々の記録が、訪れて目にした人の中にも響いて欲しい。」というノエルさん。
プレパラートのガラス板に指紋を集めるプロジェクトには、ここを訪れた皆様も参加することが出来ます。
中勘助に、杓子庵。そして新たに付け加えられた、作品による数々の記憶。
この場所に重ねられたいくつもの時間の流れを、ぜひ皆様も、味わいにいらしてはいかがでしょうか。
(文・吉村)
中勘助文学記念館 Google Map
〒421-1201 静岡市葵区新間1089-120
Tel:054-277-2970
開館時間:10:00 – 17:00
休館日:月曜日
バス:しずてつジャストライン 静鉄新静岡(セノバ)、またはJR静岡駅北口より藁科線で「見性寺入口」下車 ※駐車場あり
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