2018-11-29

めぐるり2018の締めくくり!杉山功さんアーティストトーク開催されました/静岡市美術館

11月25日に静岡市美術館にて行われました、イタリア在住の彫刻家・杉山功(いさお)さんのアーティストトーク。

今年度のめぐるりアート静岡の最後を飾るこちらのトークには大変多くの皆様が足を運んで下さり、大盛況のなか全ての会期を終えることとなりました。

トークのお相手をつとめるのは、会場である静岡市美術館学芸課長の以倉新さん。(下写真・左)
作品の展示されるエントランスにて、大勢の聴衆の皆様に囲まれてトークはスタート。

杉山さんは1954年、旧清水市に生まれ、大学時代は美術大学にて彫刻を学びました。
当時の大学の彫刻科では、人体などの具象彫刻の制作が全盛の時代。
杉山さんもその中で、伝統的な具象彫刻を学んだといいます。

卒業後しばらくは大学の研究室に在籍し、公募展に出展するなどの活動をしていましたが、大学の先生の薦めもあり1983年にイタリアへ渡り、カッラーラの美術大学で学び始めます。
戦後のイタリアといえば具象彫刻の聖地。
古代ローマから現代に至るまで、多くの具象彫刻の巨匠達を輩出して来ました。
そこでは、日本では写真でしか見られないようなたくさんの有名な作品を見ることが出来ますが、それらの本物の作品の数々を目にしていくうちに、自分自身が何をすればいいのかが分からなくなってしまったといいます。

明治になって、多くの文化が西洋から取り入れられましたが、元々、美術という概念も西洋から取り入れられたもの。
「美術」という言葉自体も、そのときに作られたものであるといいます。
同じく彫刻という概念も西洋に由来するもので、では日本人である自分が、元々は西洋からやってきたものである彫刻を作ることにどういう意味があるのか。

「イタリア人からすれば、日本から来た自分がイタリアのような彫刻を作って何になるのか?

自分の根っこは何なのか?ということになる。」
そんな思いの中、一度は諦め日本に帰ろうと思った杉山さんは、そのつもりで立ち寄ったパリのポンピドゥセンターで初めて、現代美術と呼ばれるものに接しました。

そこでそれまでの芸術感が変わることになります。

自分の持つ個人的な興味などを、作品を作る上で取り上げてもいいのだということに気付き、自分の根っこを探すために、いろいろなことを考えたという杉山さん。

そこで感じたのは、美術のことを勉強しすぎたということ。

「文化の根っこをヨーロッパに求めてはいけない。
日本のそれまでの文化をぶっつりと切断して取り入れた文化を、そのままに受け入れていていいのか?
自分の根っこを探さなくてはならないと感じた。」

そう考え、子どもの頃の、全く彫刻や美術という概念がなかった頃の気持ちに戻らなければならないと思った杉山さんが辿り着いたのは、小さな頃に様々な模型を作ったときの感動が一番大きかったということ。

西洋の石で出来た建物に、かつて木の梁が使われていた形跡を見つけ創建当時の構造などを想像したという杉山さんは、骨組みが好きであったことや、それが高じて持つことになった建築への興味などから、骨組みを持った屋根のある建物と大理石とを組み合わせた作品を作り始めます。

 

杉山さんがそこで着目したのは、木と大理石との時間的な関係性でした。

年月の経過による変化が緩やかな大理石と比べ、それよりずっと速く朽ちていく木という素材。

組み合わされたそれらの関係性は常に変化していき、それぞれの状態に出会うことが出来るのはまさに「一期一会」、その一瞬の時々のなかにしかありません。

それから杉山さんの意識は、日本と西洋との自然観の違いなどへも広がっていきます。

自然を尊重し受け入れ、建物を作るにしても、出来るだけどこかに自然を残そうという日本の自然観。

それに対して、スパンと自然を切り取ってしまう・自然を征服しようという意識の強く感じられる西洋の自然観。

「建物を建てる際の地鎮祭など日本では自然に受け止められているが、イタリア人に話したら大笑いされた。

それぞれに相容れない自然観がある。」

という杉山さん。

木と石を組み合わせていた作品は徐々に石だけになり、建物である神殿は文化の象徴に、そしてそれの乗る下の部分は自然を象徴するものに。

日本と西洋の両者の自然観の違いが、作品の主題として扱われていくようになります。

たとえば会場の作品にも見られるような、石を磨かずに自然のままの近い状態で使われている土台の部分。

日本では馴染みのある使われ方ですが、これも元々は西洋ではほとんど見られないものであったとか。

それが最近は西洋でも見られるようになってきたのは杉山さんの影響では、という以倉さんのご指摘に、会場に笑いが溢れます。

そして会場からの質問の時間に入り、日本とイタリアの文化の違いなど、お話がさらに発展していきます。

海外ではパーティーで家に人を呼ぶ文化が盛ん。

そこで、センスや趣味などを客人に披露するために、家に飾る美術品のコレクションが重要になるとか。

明るく陽気なイメージのあるイタリア人も、日本人と似ている部分や異なっている部分があり、それがそれぞれの文化の違いを形成している…。

イタリアにおける長年の制作への取り組み、またそれによって感じてきた様々な文化の違いを、実体験を交えながらお話ししてくださった杉山さんのトーク。

その中で、様々な美術の歴史や海外の地名などが登場して来ましたが、それぞれの時代の美術の状況や都市の持つ特色などに、豊富な知識で分かりやすく説明を加えながらトークを進行してくださった以倉さん。

杉山さんの作品や取り組みへの理解が深まるのはもちろんのこと、海外の文化や彫刻の歴史、ひいては自分たちの暮らす現在の日本の文化がどのようにして作られてきたのかなど、様々なことに興味や関心が広がっていく、大変に刺激的で濃密なトークとなりました。

 

その後も作品を改めて鑑賞したり、杉山さんにお話を伺う多くの皆様で大変に賑わった会場。

めぐるりアート静岡2018の最終日は、こうして大盛況のなか締めくくられました。

(文・吉村)

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