神奈川県逗子生まれの私は、連なる山々の遠く向こうにそびえ立つ富士山を毎日のように眺めて育った。今日はすばらしい、雲に隠れている、雪化粧になった、その、うち続く変化に飽きることなく魅了される。静岡を訪れ、今までの見慣れた富士山は景色ではなく、圧倒的な存在感で、空気として、質感として肌に直接伝わってきた。角度や距離が違うだけでこんなにも感覚が揺さぶられるものか。物事に対する関わり方や存在の意味はきっとそんな些細な差で違ってくるのかもしれない。そびえる富士の麓で、駿河湾の豊かな海と、清らかな水、穏やかな気候とこの街の歴史は、この地に何を残したのだろう。どのように人々に息づいているのだろう。

松澤有子/「泊」 松戸アートラインプロジェクト(2010)

〈「泊」 松戸アートラインプロジェクト〉 2010

松澤有子は、フィールドホッケーをするためにオーストラリアに留学し、そこでアートに目覚めたという変わった経歴を持つ。彼女にとりアートは、見ず知らずの国で人と出会う方法だったようだ。「その土地、その空間、そこに存在する時間や記憶に寄り添うこと」からはじめ、手数をかけて「その場に生命を宿」してきた彼女が、静岡で何を生み出すか楽しみだ。

2013 〈つむぐ〉「夏休み企画展:dreamscape-うたかたの扉」京都芸術センター、京都
2012〜13 〈つづく〉「徳島LEDアートフェスティバル」、徳島
2011 〈ひかりを仰ぐ〉「黄金町バザール」、横浜
2011 〈来訪〉「中之条ビエンナーレ」、群馬
2009 〈enishi〉「越後妻有アートトリエンナーレ」、新潟